2026.08.11 頭痛
日本脳神経外科学会脳神経外科専門医・指導医

- 月に4日以上の片頭痛があり、痛み止めや予防の飲み薬で十分な効果が得られない方には、発作そのものを起こりにくくする「予防注射(CGRP製剤)」という選択肢があります。
- 保険適用の治療です。3割負担の方で薬剤費は1回およそ12,000〜13,000円、月1回のペースで月15,000円前後が目安です。自己注射に移行すれば通院は2〜3か月に1回程度になります。
- 片頭痛の治療を始める前に大切なのは、危険な頭痛(二次性頭痛)が隠れていないかの確認です。当院では院内MRIで当日に脳の状態を確認できます。
「毎回痛み止めを飲むのがつらい」「だんだん薬が効きにくくなってきた」——そんな片頭痛の悩みをお持ちの方は少なくありません。この記事では、発作を起こりにくくする予防治療の新しい選択肢、CGRP製剤の注射について、対象・効果・費用・注意点をご紹介します。
片頭痛の予防注射(CGRP製剤)とは
片頭痛の発作には、体内のCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が関わっていると考えられています。CGRP製剤は、このはたらきを抑えることで発作を予防するお薬で、皮下注射で用いられます。
当院では3種類の製剤を扱っています。
- エムガルティ(ガルカネズマブ):初回240mg、以降120mgを月1回
- アジョビ(フレマネズマブ):225mgを月1回、または675mgを3か月に1回
- アイモビーグ(エレヌマブ):70mgを4週に1回
いずれも条件を満たせばご自宅での自己注射に移行でき、慣れれば通院は2〜3か月に1回程度に減らせます。
なお、CGRP製剤(注射薬)は国の「最適使用推進ガイドライン」の対象となっているお薬で、どの医療機関でも処方できるわけではありません。頭痛診療に精通した専門の医師が在籍するなど、要件を満たした施設でのみ投与が可能です(この制限があるのは注射薬のみです)。当院はこの要件を満たした医療機関として、診断から投与・経過のフォローまで一貫して対応しています。

こんな方に検討されます(対象の目安)
- 過去3か月以上にわたり、月4日以上の片頭痛がある
- トリプタンなどの急性期治療を適切に行っても、日常生活への支障が残る
- 既存の予防の飲み薬(ロメリジン、バルプロ酸、プロプラノロール、アミトリプチリンなど)を試したが、効果が不十分だった/副作用で続けられなかった
- 痛み止めを使う回数が多く、薬の使いすぎによる頭痛(薬物乱用頭痛)が心配な方
これらは保険適用の条件とも重なります。「自分が当てはまるか分からない」という段階でも、頭痛の頻度と生活への支障をお聞きして一緒に判断しますので、ご相談ください。
効果の現れ方・通院ペース

注射薬は1〜3か月かけて効果が現れてくることが多く、早い方では2週間ほどで「発作が軽くなった」と感じられます。
効果の判定は3か月が目安です。日本頭痛学会の指針では、3か月時点で月間頭痛日数が50%以上減少、または生活への支障度(HIT-6スコア)が改善していれば「効果あり」として継続を検討します。頭痛ダイアリー(発作の日数・痛み止めを飲んだ回数の記録)が判定の土台になりますので、受診前からの記録をおすすめします。
6〜12か月以上続けて効果が安定していれば、減量・休薬を試みる選択肢もあります。また、3剤は作用の仕組みが少しずつ異なるため、1剤が効かなくても別の製剤で効果が出ることがあります。中止・変更の判断は、診察のうえで個別にご相談します。
費用の目安と保険適用について
保険適用の治療です。適用には次のような条件があります。
- 片頭痛と診断されている(前兆の有無は問いません)
- 過去3か月以上、月4日以上の片頭痛日数がある
- 急性期治療を適切に行っても日常生活に支障がある
- 既存の予防薬を1剤以上試して、効果不十分または継続困難
自己注射の管理料などを含む月 15,000円前後
※医療費が高額になる場合は、高額療養費制度を使えることもあります。
副作用・注意点
比較的多いのは注射部位の反応(痛み、赤み、かゆみ、腫れ、内出血)で、数日以内に自然におさまることがほとんどです。そのほか、鼻咽頭炎、めまい、倦怠感、便秘などが起こることがあります。
頻度は低いものの、注意が必要な副作用
- 重い過敏症反応:発疹、血管浮腫、アナフィラキシー。投与後数分〜数日で出ることがあり、呼吸が苦しい・顔や唇が腫れる・全身にじんましんが出る場合はすぐに受診してください。
- アイモビーグ特有の重い便秘:多くは初回投与後に現れます。便秘が回復しない・悪化する場合は受診が必要です。高血圧の新規発症・悪化の報告もあります。
次に当てはまる方は、事前にお知らせください
- 妊娠中・妊娠を希望する方:薬が体内に数か月残るため、妊活のご予定があれば早めにご相談ください(計画的な休薬を検討します)
- 授乳中の方:継続の可否を個別に判断します
- 便秘症・消化管の病気のある方(特にアイモビーグ)
- 脳卒中・心筋梗塞などの既往、コントロール不良の高血圧のある方
受診時には、頭痛ダイアリー、これまで試した予防薬(薬剤名・期間・やめた理由)、お薬手帳、既往歴・アレルギーの情報をお持ちいただくと、スムーズにご案内できます。
飲み薬(経口CGRP薬)との違い・選び方
CGRPのはたらきを抑える飲み薬タイプもあります。どちらが優れているということはなく、生活スタイルに合わせて選べます。
注射が向いている方
- 毎日の服薬を忘れがち
- 薬を飲む回数を減らしたい
- 通院を減らしたい
(自己注射なら2〜3か月に1回)
飲み薬が向いている方
- 注射に抵抗がある
- まずCGRP関連製剤の効果を試してみたい
(飲み薬で効果を確かめてから、注射に切り替えることもできます) - 妊娠を考えている
(体から抜けるのが早く調整しやすい)
まず飲み薬から始めて注射に切り替えることも、その逆も可能です。痛み止めの回数が多くなっている方には、薬物乱用頭痛を起こしにくいタイプの飲み薬が適していることもあります。
頭痛の治療はこの数年で大きく変わっています。当院では日本頭痛学会の学術総会や地域の勉強会に定期的に参加し、ガイドラインの改訂や新しい薬の情報を確認しながら、患者さんに合った選択肢をご提案できるよう心がけています。
当院の片頭痛診療|まず「危険な頭痛」を除外してから
片頭痛の治療を始める前に大切なのは、くも膜下出血や脳腫瘍などの危険な頭痛(二次性頭痛)が隠れていないかを確かめることです。当院では院内のMRIで当日に脳の状態を確認でき、二次性頭痛を除外したうえで、片頭痛のタイプに合わせた治療をご提案します。
危険な頭痛のサインについては、「危険な頭痛の見分け方|脳腫瘍・脳卒中を見逃さないサインとMRI検査」で詳しく解説しています。
よくある質問(FAQ)
Q1. 予防注射は痛いですか?自分で打てますか?
A. 細い針で皮下に注射しますので、痛みは一般的な採血よりも軽いことがほとんどです。打った場所が赤くなる・かゆい・少し腫れるといった反応が出ることがありますが、多くは数日で自然におさまります。ご自宅での自己注射も可能です。まず院内で医師の指導のもとに接種し、手技に慣れていただいたうえで導入します。自己注射に移行すると、通院は2〜3か月に1回程度で済むようになります。
Q2. 保険は使えますか?費用はどのくらいかかりますか?
A. 保険適用の治療です。3割負担の方で、薬剤費は1回あたりおよそ12,000〜13,000円。自己注射の管理料などを含めると、月1回のペースで月15,000円前後が目安になります。医療費が高額になる場合は高額療養費制度が使えることもあります。
Q3. どのくらいで効果が出ますか?
A. 注射薬は1〜3か月かけて効果が現れてくることが多く、早い方では2週間ほどで実感されます。効果の判定は3か月を目安に、頭痛の日数・痛み止めの回数・生活への支障を頭痛ダイアリーの記録をもとに一緒に確認します。効果が十分でなければ、別の薬への変更も検討します。
Q4. 飲み薬とどちらがいいですか?
A. どちらが優れているということはなく、生活スタイルに合う方を選んでいただくのが一番です。注射は「服薬を忘れがち・回数を減らしたい」方に、飲み薬は「注射に抵抗がある・まずCGRP関連製剤の効果を試してみたい・妊娠を考えている」方に向いています。途中で切り替えることもできますので、診察のうえで一緒に決めていきましょう。
「片頭痛の予防注射の相談」とお伝えいただくとスムーズです。
