2026.08.22 頭痛
日本脳神経外科学会脳神経外科専門医・指導医

- 片頭痛のある方すべてがピルを飲めないわけではありません。分かれ目は「前兆」があるかどうかです。
- 前兆のある片頭痛では、エストロゲンを含むピルは脳梗塞などのリスクが高まるため使用できません(禁忌)。
- 前兆があるかどうかの見極めは自己判断が難しく、国際的な診断基準に沿った問診が必要です。
婦人科で「片頭痛があるとピルは出せない」と言われた方へ
月経困難症やPMS、避妊のために低用量ピル(OC・LEP)を希望したところ、「片頭痛がありますね。それだと処方できません」と言われて戸惑った——そんな経験から、この記事にたどり着いた方が多いのではないでしょうか。
まずお伝えしたいのは、片頭痛があれば全員がピルを使えない、というわけではないということです。判断の分かれ目は「前兆(ぜんちょう)」の有無にあります。
そして、その前兆があるかどうかは、実は自分では判断しづらいものです。当院には、この見極めのために婦人科の先生からご紹介いただく方が数多くいらっしゃいます。

なぜ「前兆のある片頭痛」ではピルが使えないのか
前兆のある片頭痛の方が、エストロゲン(卵胞ホルモン)を含む低用量ピル(OC・LEP)を服用すると、脳卒中(脳梗塞など)のリスクが相乗的に高まることが知られています。このため、前兆のある片頭痛は、エストロゲンを含むピルの禁忌(使用できません)とされています。
前兆のある片頭痛そのものにも脳梗塞のリスクを高める側面があり、そこにエストロゲンによる血栓のリスクが重なることが理由です。婦人科の先生が慎重になるのは、この重なりを避けるためで、決して大げさな判断ではありません。
裏を返せば、前兆のない片頭痛であれば、年齢や喫煙などの条件を含めた総合的な判断のうえで使用できる場合があります。だからこそ、「自分はどちらなのか」をはっきりさせることに意味があります。
「前兆」とは何か——視覚症状だけとは限りません
前兆とは、頭痛が始まる前に現れる、時間が経てば完全に元に戻る神経の症状のことです。国際頭痛分類(ICHD-3)では、次のいずれかが1つ以上あるものと定義されています。
- 視覚の症状
- 感覚の症状
- 言語の症状
- 運動の症状
- 脳幹の症状
- 網膜の症状
もっとも典型的なのは閃輝暗点(せんきあんてん)です。ギザギザした光が見える、視野の一部が見えにくくなる、といった症状で、多くの方が「キラキラ」「ギザギザ」と表現されます。
※まれに、前兆だけが現れて頭痛が起こらないこともあります。この場合も「前兆のある片頭痛」として扱います。
ただ、ここで見落とされやすい点があります。前兆は視覚症状だけではありません。頭痛が始まる前に手足のしびれや脱力感を伴う方もいらっしゃいます。「目には何も起きていないから前兆はない」と自己判断してしまうと、実際には前兆のある片頭痛だった、ということが起こり得ます。
頭痛が始まる前に、次のような症状が出て、しばらくすると元どおりになることはありませんか。
- ギザギザした光やチカチカするものが見える/視野の一部が欠ける
- 手や口のまわりがしびれる
- 力が入りにくい
- 言葉が出にくい
ひとつでも心当たりがあれば、前兆のある片頭痛の可能性があります。自己判断せず、一度ご相談ください。
なお、まれに前兆だけが現れて頭痛が起こらないこともあります。この場合も「前兆のある片頭痛」として扱い、ピルを使えるかどうかの判断は同じになります。
大切なのは、まず正しく診断すること
当院が最も重視しているのは、正しい診断を行うことです。適切な治療は、正確な診断があってはじめて成り立ちます。
そのため当院では、国際頭痛分類(ICHD-3)の診断基準に沿って診断を行います。診察では、頭痛がいつから・どんなきっかけで・どのくらい続くのか、前後にどんな症状があるのかといった詳細な病歴を丁寧にうかがい、診断基準と照らし合わせていきます。
「前兆があるかどうか」は、この問診の精度で決まります。ピルを使えるかどうかという判断の土台になる部分ですので、頭痛を専門とする医師による評価をおすすめしています。
うかがった経過を記録しながら、診断基準と照らし合わせていきます
ピルが使えないと分かったあとの選択肢
「前兆がある」と分かった場合でも、そこで終わりではありません。当院では次のようにご案内しています。
ホルモン剤について
エストロゲン(卵胞ホルモン)を含む薬剤は避ける必要がありますが、エストロゲンを含まない薬剤には選択肢があります。ただし、お薬によって目的が異なりますので、分けてご説明します。
月経困難症や子宮内膜症の痛みに対して
ジエノゲスト(ディナゲスト)が用いられます。黄体ホルモン単剤で、エストロゲンを含まないため血栓症のリスクが低いお薬です。避妊の効能はありません。
避妊を目的とする場合
スリンダ(ドロスピレノン単剤の経口避妊薬)や、ミレーナ(子宮内に装着するホルモン付加型の器具)があります。スリンダは2025年に国内で初めて発売されたプロゲスチン単剤の経口避妊薬で、エストロゲンを含まないため、従来のLEPにあった血栓症に関する禁忌の項目がありません。前兆のある片頭痛でピルを諦めていた方の、新しい選択肢とされています。
当院ではこうした選択肢があることをご説明したうえで、かかりつけの婦人科の先生にご相談いただくようお願いしています。当院が診断と頭痛の治療を担い、お薬の選択は婦人科の先生と連携する形です。
※当院ではホルモン剤の処方は行っておりません。
頭痛そのものの治療
そもそもの片頭痛が軽くなれば、生活の困りごとは大きく変わります。当院では次のような治療を行っています。
- 急性期の治療:発作が起きたときに使うお薬
- 予防治療:発作の回数や強さを減らすためのお薬
- CGRP関連製剤による予防治療:注射薬・飲み薬があります(→ 片頭痛の予防注射(CGRP製剤)とは|対象・効果・費用の目安)
月経に関連して起こる片頭痛は、周期に合わせた対策を検討できる場合もあります。「ピルが使えないから何もできない」ということはありません。
ピル服用中に、こんな頭痛が出たら
ピルを服用している方で、次のような頭痛が現れた場合は、血栓性の病気を除外することが重要です。早めに受診してください。
- 今までなかった頭痛が新たに起こった
- 今までと違う痛み方をする(頻度や強さが急に増した/持続時間が長くなった/いつもの薬が効かない)
- 新しく前兆が出るようになった
- 手足のまひやしびれ、ろれつが回らないなど、体の一部に神経の症状が出た
これらは頭蓋内の病変を調べるべきサインです。当院では脳MRIを当日撮影・診察まで対応しています(→ 危険な頭痛の見分け方|脳腫瘍・脳卒中を見逃さないサインとMRI検査)。
強い頭痛が突然起こった場合や、意識・言葉・手足の異常を伴う場合は、救急対応が優先されます。ためらわずに救急要請をご検討ください。
当院で頭痛のご相談をいただいた方

当院で頭痛のご相談をいただいた方は7,849名で、そのうち63.3%が女性です。年齢の中央値は42歳でした。
頭痛の種類によって男女の比率は異なります。片頭痛と診断された5,173名のうち68.3%が女性で、年齢の中央値は38歳です。市販薬の使いすぎによって起こる薬物乱用頭痛では651名中77.9%が女性と、さらに高くなります。
痛みを我慢して市販薬を重ねてしまう前に、一度ご相談いただければと思います。
※2023年1月10日(開院)〜2026年8月17日の当院集計です。複数の頭痛を併せ持つ方は、重複して計上しています。
よくある質問
Q1. 前兆があるかどうか、自分で判断できますか?
A. 自己判断は難しいことが多いです。閃輝暗点のようにはっきりした症状ばかりではなく、しびれや脱力として現れることもあります。国際的な診断基準に沿って、頭痛が起こる前後の経過を詳しくうかがったうえで判断します。
Q2. 婦人科からの紹介がなくても受診できますか?
A. はい、紹介状がなくても受診いただけます。婦人科の先生からのご紹介も数多くお受けしています。
Q3. 診断結果は婦人科の先生に伝えてもらえますか?
A. ご希望に応じて対応いたします。かかりつけの婦人科がある方は、受診時にお申し出ください。
Q4. 検査は必要ですか?
A. 診断は問診が中心です。ただし、今までと違う頭痛や神経の症状がある場合には、二次性頭痛(別の病気が原因の頭痛)を除外するため脳MRIを検討します。当院は院内にMRIがあり、当日の撮影・診察に対応しています。
Q5. ピルをやめたほうがよいですか?
A. 自己判断で中止せず、まずは婦人科の先生にご相談ください。当院では、片頭痛に前兆があるかどうかの評価と、頭痛そのものの治療をお手伝いします。
婦人科の先生へ
ピルの処方をご検討の患者さんで、片頭痛の前兆の有無について判断に迷われる場合は、当院にご紹介ください。国際頭痛分類(ICHD-3)に基づく診断を行い、診療情報提供書にてご報告いたします(お急ぎの場合はお電話でも対応いたします)。頭痛の治療が必要な場合は当院で継続し、ホルモン剤の調整は貴院にご相談いただく形で連携させていただきます。
ご予約・お問い合わせ:044-872-8027
まとめ
- 片頭痛があってもピルを使える方はいます。分かれ目は前兆の有無です
- 前兆のある片頭痛では、エストロゲンを含むピルは脳梗塞などのリスクが高まるため使用できません(禁忌)
- 前兆は視覚症状だけでなく、しびれ・脱力・言葉の出にくさとして現れることもあります
- 前兆の有無は自己判断が難しく、診断基準に沿った問診が必要です
- ピルが使えない場合も、目的に応じたホルモン剤の選択肢や、片頭痛そのものの治療があります
「自分は前兆があるのだろうか」と迷われている方は、一度ご相談ください。
頭痛外来では、聖マリアンナ医科大学 神経内科学の秋山久尚教授が月曜・水曜の午前に専門外来を担当しています(変更の場合がありますので、ご予約時にご確認ください)。
予約時に「頭痛の相談」とお伝えください。
